半蔵門御散歩雑談/ODR Pickups

株式会社ODR Room Network

このブログは、株式会社ODR Room Networkのお客様へのWeekly reportに掲載されている内容をアーカイブしたものです。但し、一部の記事を除きます。ODRについての状況、国際会議の参加報告、ビジネスよもやま話、台湾たまにロードレーサーの話題など、半蔵門やたまプラーザ付近を歩きながら雑談するように。

【半蔵門ビジネストーク】20171204 信頼はトラストマークで

【半蔵門ビジネストーク】20171204 信頼はトラストマークで

 

すでに何度かご紹介しているが、私は中堅のIT企業に27年間勤務して、最後の8年は、イスラエル企業との紛争窓口として過ごした。係争地が相手国だったため、弁護士さんとともに何度も同国を訪問し、一時は暗殺されるかもしれないという状況にもなった。詳しくは、こちらのKindle本をご覧いただくと状況がわかると思う。

 

イスラエルは当時まだアラファト議長も存命で日常的にテロの恐怖があったため、「現地に行かずに訴訟に参加できたらな」と思っていたところ、訴訟が終わった後にODR(Online Dispute Resolution)の存在を知り、区切りもいいので退社して今の会社を設立したのである。そしてODRに関する情報収集、情報提供をしながら、紛争つながりで越境ECの紛争解決に関わり、現在の国民生活センター越境消費者センター(CCJ)に関わることになった。

ccj.kokusen.go.jp

このCCJは、消費者の越境トラブルのみを扱い、年間4000件近い苦情処理をしているが、大きな特徴は、「紛争相手国に提携協力機関を持っている」ことである。

トラストマークが再び

越境トラブルの場合、日本の相談機関がトラブル相手の海外事業者に直接連絡しても、こちらの名前も聞いたこともないし、法的な影響力もないので、相手にされないことも多い。その点、相手国の影響力のある相談機関が事業者に話をすれば、すくなからず影響を及ぼしたりできることがある。例えば、日本なら国センや消費者センター、米国ならばBBBが連絡をとれば、事業者としても無視しにくいのだ。こうした事情から「影響力を持つ機関によるソフトな執行力」を持つ「トラストマーク」について、以前から施策がなされてきたが、また再度注目されつつある。

 

最初は、ネット取引は信頼性が低かった。決済は大丈夫か、モノは届くのか、信頼できる事業者なのか等々、実店舗主流の時代のビジネス、消費では、ネット取引それも越境では勇気のいることだった。そこで、トラストマークで信頼性を高め、ネット取引を活性化させ、経済効果をあげようという動きが始まる。そして、ネット取引は普及に弾みがついた。

苦情処理も同時に

トラストマークと同時に関心が高まったのは紛争解決、それも越境なので裁判ではなくADR、あるいはODRだった。紛争にならないまでも、苦情処理は必須となり、トラストマークと同時に苦情処理を扱う機関が出て来た。

米国のBBBや欧州のECC-Netなどである。これをモデルにしてCCJの前身であるICA-Netが経済産業省のプロジェクトで開始された。BBBは、メキシコを含む北米、ECC-Netは欧州全域、CCJも現在は20カ国と提携している。

European Consumer Centres - European Commission

苦情処理よりも一歩進んで、執行力のあるADRあるいはオンラインで処理を進めるODRも標榜され、欧州ではODR規則が施行され、ECサイトはODRの機能を持つことが義務付けられた。ラテンアメリカでは、eInstituteという南米+メキシコ+スペインを含むODR連携機関が設立された。これらの中にはトラストマークと紛争処理両方の機能を持つものや、別のトラストマーク機関と提携するところもある。eInstituteは同じ南米のトラストマーク連携eCofianzaと提携している。

こうしたODRを推進するグループは、越境での執行力を確保しようとルールの共通化に動いたが、UNCITRALのWG3での数年に渡る交渉では、テクニカルノートとしてまとめられたが、事前の紛争解決方法の合意の有効性を巡る議論で合意が得られず、共通規則とはならなかった。

トラストマークでのソフトな執行力

トラストマークの多くは、紛争解決機能を持つことを推奨している。また自身が紛争解決機能を果たす場合も多い。トラストマークはECの普及を推進するために越境取引のための相互認証を目指しているものが多く、いくつかの提携協力機関が生まれている。

日本の関わるものでは、WTA(World Trustmark Alliance)が27カ国30機関の参加を得て増え続けている。また欧州ではEuro Labelが6カ国でWTAとも提携している。またeConfianzaは南米10カ国を網羅し、ここもWTAと提携済みである。

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日本でもOECDの消費者保護ガイドラインが出された1999年以降、オンラインマーク、インターネット接続サービス安心マーク、プライバシーマーク、JIMAトラストマーク、e-TBTマークなど各種トラストマークが生まれた。

こうしたトラストマークには、官製または業界主導のものがある。

TradeSafe社は、民間企業だがWTAに2007年に加盟し、トラストマークとして設立13年目となる。現在までに約350サイトにマークを発行し、アジア圏での後進の他国のモデルになっている。審査方針は、WTAのガイドラインに沿っており、ADRサービスや補償サービスなど業界先駆的な施策を行ってきた。

 

WTAなど国際連携

WTAは、OECDの消費者保護ガイドラインを元に、共通のガイドラインを備え、加盟前に2年以上の実績を持たないといけないなど、条件も厳しくしている。これは、マークを発行していないのに、WTA加盟によって信頼性を高めようとする後発の国があるためである。最終的には、相互認証を目指しているが、ガイドラインであるがゆえにレベル感が揃わない面が新たな問題となっている。

http://www.worldtrustmark.org

一方、Euro-LabelやeConfianzaなどとの連携も進み、APECではその連携運営のノウハウを期待されて、ECSGのゲストシートメンバーとなっており、主力メンバーがAPECにも参加している。

国際連携は、引き続き活発で、新たにASEAN TRUSTMARK ALLIANCEや欧州のSafe.Shop との提携で、Ecommerce Foundationなどのグローバルトラストマークへの可能性も模索中である。

 

期待と課題

トラストマークは、越境取引でのソフトな執行力として期待されている。また、事業者の質を担保することだけでなく、消費者へのマークによる注意喚起により、そもそも紛争を防止することも重要な役割と認識している。国際連携の増加により、ECへの関心と信頼が高まればより活発な取引が行われ経済にもよい影響を与えることになる。

しかし、課題も多い。

デジタルではマーク(データ)のコピーは容易なので、マークの海賊版の可能性がある。多くは、データベースと連動させマークの真性を確保しているが、注意しないと未だにただの画像データの場合がある。

トラストマークは、審査によって企業やECショップを認定し、質を確保し、トラブル対応への参加と執行の確保を促す。すなわち、加盟していないショップとのトラブルには必ずしも強制力、執行力を持たない。トラストマークを取ろうという意思のあるショップは、真面目に対応しようとしているのでトラブルは抑制されるが、マークを取得する意思を持たないショップにどう対応させるかが問題だ。

さらに、ビジネスモデルとしてのジレンマがある。

トラストマークをとる企業側としては、有償で取得するマークは差別化として使いたい。業界全部がとってしまったら、その効果はなくなってしまうし、マーク事業者の存在意義も薄れてしまう。簡単に与えるようではいけないので、そうなると、ビジネス規模が制限されてしまうことになる。

BBBなどは、ほとんどの企業がマークを取得したために、ランク付けレーティングモデルとしてビジネスモデルを構築しているが、それも、多くの企業が取得したからできることであり、これからトラストマークを普及させようとする場合には、鶏と卵的なジレンマがある。

 

ところで日本のトラストマークについては、実際のところトラストマークがなくても信頼のおけるショップが多く、大手モール自体がトラストマーク的役割を果たしている面もある。

 

※これは、11月2日に行なわれたじゃこネットでの国際消費者問題研究での原稿です。