【ODRピックアップ】20150519 ここで”争わない”はいいことかもしれないけど、ここで”争えない”ことは”いいこと”なのかい?
日経新聞2015年5月11日の朝刊の15ページ法務面のコラムは、
「日本の仲裁機関、人気低く」と題して、
”海外取引の紛争解決手段としての国際仲裁地として、日本が選ばれず8割りが海外に流失してしまっていること”を報じています。その理由は、”言語に壁”とサブタイトル。
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ビジネスの契約で、紛争が生じた場合の解決手段を盛り込む場合、時間のかかる裁判ではなく、仲裁を採用する場合が増えていますが、国際仲裁の場合、どこを仲裁地にするかも重要なポイントになります。
私の経験したケースでは、仲裁地がイスラエルになったため、実際の仲裁廷のために、日本から証人や弁護士のチームが現地に移動し、宿泊することになるのは勿論、現地法律に詳しい現地の弁護士を、事前の打合せや作戦会議のために呼んだりして、何億もの経費がかかりました。また、企業にとっての重要な人物が証人として移動、滞在するために、危険に備える必要もあり、保険などにも”危険特約”の費用がかかります。仲裁地を自国におけることは、非常に重要なことなのです。
日本の仲裁機関であるJCAA日本商事仲裁協会は、利用促進のため規則を改正して利用増を計りましたが、2014年の国際仲裁での利用件数は、12件と2013年の24件から大きく減少しています。
こうなる理由は、利用企業によると言語の問題。仲裁は、相手がいることなので、仲裁地を決める際にも相手の合意が必要となります。日本で行うとすれば、言語は日本語となり、相手方は、通訳を用意することになり、費用的な負担と同時に、通訳が仲裁に慣れた人であることも重要事項。信頼できる通訳がいればいいでしょうが、自国から日本語を駆使できる通訳を連れていくことは、大きなハードルとなります。
となると、両者にとってフェアなのは、英語圏であること。結果、仲裁地として選ばれるのは、英語圏であるシンガポール(250件)、香港(100件)などに偏ってきてしまいます。 特にシンガポールは、同時通訳やTV会議を揃えた仲裁センターを開業し、金融ビジネスのハブだけでなく、仲裁のハブにもなろうとしています。韓国も、ソウル国際仲裁センターを開設しました。
自国が仲裁地となることは、前述のコスト面、リスク管理面を重要視すれば、結果として、日本企業が泣き寝入りを選択することにも繋がってきてしまいます。
記事では、「成長戦略の一環として(国際的な)法的サービスの底上げ」を提言しています。
いずれにしても、通訳を調達していくことは重要事項です。用意された通訳が、
「ほんとうにこちらの主張を正しく通訳しているのか」
あるいは、
「今通訳されたことは本当に相手の主張を正しく伝えているのか」
という疑念がでてくるからです。
私の関わったケースでは、弁護士が信頼の置ける通訳をつれてきましたが、仲裁人は最初に質問します。
「あなたは、この証人と以前に親しい関係にありましたか?」と。
当然、答えは、「いいえ」です。
実際、弁護士は事前には通訳の必要な証人と会わせないように配慮していました。