汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師【読書/映画感想】20211005
「ウルトラダラー」、「スギハラ・サバイバル」など国際サスペンス、諜報モノ小説で有名なジャーナリスト 手嶋龍一氏の著作は、スパイ小説好きを惹きつける題名の裏舞台暴き系のドキュメンタリー作品。
戦時中、戦後の東西冷戦の中での活躍したジョン・ル・カレやリヒャエル・ゾルゲ、情報時代のジュリアン・アサンジやスノーデンなども登場し、その特性や生い立ち、そこに至った背景や後始末の逸話、そして現在の状況などを事実と調査をベースに描かれている。
ジョン・ル・カレは小説も書いている。いくつか紹介される子供時代の逸話、引用されるフレーズは、特異的だ。学生時代から群れに溶け込みバスに乗り自分の特性を隠す二重スパイの素質に溢れていたこと、本音を言う人、裏表のない人が素晴らしいと言われるが、人前で全裸になることがそんなに楽しいか、ドラマならまだしも実際にこういう感覚を持つ人であったと言うことは興味深いなどと軽い言葉で書くのも恥ずかしいくらいだ。
彼の小説「パナマの仕立て屋」は映画キングスマンの拠点を思わせるが多くの高官が出入りする仕立て屋を情報屋に”仕立て”あげるというドラマなのかリアルなのかをわからなくするありそうでなさそうな、だからこそのリアリティー。
スパイは、大使館員や新聞記者だったりする。人知れず身分もなく潜入して任務を秘密裏に果たすと言う映画っぽいことはないようだ。ネットの時代、シギント(通信情報)、イミント(画像情報)は溢れかえっている。人との関係を利用して得る(ヒューミント)こそがスパイの本質で、敵からも魅力的な人間と認められるからこそ入手できる情報こそが重要情報だ。しかも、「事実」そのものを集めるのなら誰でもできなくはない。それらを繋ぎ合わせて「真実」にたどり着く、読み解く、ともすればただの陰謀論になってしまいそうな物語が単なる空想ではなく世界をも左右する貴重なインテリジェンスになっていく。
そういえば、就職した頃、文系出身プログラマーをPRしていた会社にいわれて就職誌の広告に出させられた。インタビューを受けて、(文系出身でもプログラマーの)仕事してますよということを表すのだが、どんな会社員になりたいかという質問に、「様々な課題を密かに解決していくフィクサーになりたい」とリクルート雑誌で宣いそれが発行されたことがある。今考えると何を就職誌で言ってんだよということだが、そういうのを掲載させてくれた会社の広報部(なかったのかも)も図太いなと感心する。
こちらもメルカリで次の読者の手に渡りました。めでたし。