鳴かずのカッコウ【読書/映画感想】20220121
インテリジェンス小説といえば日本なら手嶋龍一氏だと思っている。「汝の名はスパイ〜」「ウルトラダラー」などは読み応えがある。2021年3月出版11年ぶりの新作小説だ。
目立たない公安調査庁という組織の4人が日本国内で暗躍するスパイたちに近づき大きな成果=といっても目立った華やかなそれではなく静かにダブルエージェントに巻き取っていく。静かな迫力のある名作。
映画には、しにくいんだろうな。殺人も起きないし、大捕物もない。地下鉄で尾行を振り切るためにドアが閉まる直前に電車を降りる、それを追って一人だけ慌てて降りる場面が最大のアクションかもしれないくらい。おそらく映画にするならばアクションが追加されるだろうが途端にこの作品が持つ諜報世界の静かな凄みは忘れ去られそうだ。
主人公の映像記憶能力はものすごいがそれも絵にしにくいし、ヒロイン的な人物のモティベーションは「アラビアのロレンス」だがそれはもうその映画見てよの世界。
一方のヒーローは目立たない地味な青年。誰にも記憶されにくい影の薄さ。ジミーと呼ばれてバカにされている節もある。ひどい時には、超地味なチョー・ジミーとすら呼ばれる。しかし実はそれが諜報の世界では類稀なる天性の才能。しかし地味なのでこれまた映像にしにくい。イギリスでは「バードウォッチャー」と呼ばれるように鳥に気づかれないように気配を潜めて観察しここぞという場面で近くに近づく。
鳥。それはこの小説の題名にもなったカッコウだ。カッコウは托卵といって他の鳥の巣に卵を生み育てさせる。自分の卵で偽装するために本来の卵を1個巣の外に蹴り出す。スパイがまるで相手の近くに忍び込みその仲間になるために。
そしてずっと長くカッコウの巣にいるために鳴かないでいる。
鳴かずのカッコウ。
それは永遠の鳴かずのカッコウ。