83歳のやさしいスパイ【読書/映画感想】20230905
最近映画でも小説でも設定が面白く感じないと観る気にも読む気にもならない。この映画は老人ホームに潜入する老人スパイの話。スペインの作品だ。依頼者は娘で監視対象はその母親、老人ホーム(聖フランシスコ特養ホーム)に入居している。虐待を受けていないか、ひどい生活をしていないか、どうやら盗難被害があるらしい、などを監視し報告するというスパイ。。というか探偵みたいな役割だ。スマホでのTV電話やペン型隠しカメラの操作にも不慣れなスパイが老人ホームでほのぼのと暗躍する。
老人ホームの内偵調査これからニーズが出てきそうな話だ。女性が数十人、男性が4人という比率もリアル。メガネ型録画カメラの映像が使われてカメラ酔いしそうな映像。ホームではそれぞれが話し相手になっていて同世代が過ごしているのはある意味では幸せなのかもしれない。スパイだからいろいろな人に話を聞いているうちに勘違いされて恋され、一緒に外出してくれと言われたりして面倒ごとの予感。スパイ本人が注目を浴びて内偵がしにくくなったり。
亡父が晩年にリハビリ施設に入ったが、いつも私に愚痴をこぼす。「誰も何も喋らない。みんなボケているのか」みんなボケている中で自分だけ正常。元気な老人にはそういう環境は耐え難いのだろう。
映画中ではボケた婦人がお金をくれとポケットを弄る。しまいには私があげたお金を返せと言い出す。そしてどうやら盗癖があることを突き止める。あるいは、誰も訪問してこない入居者。ずっと一人庭を眺める入居者。
この映画は、「スパイ」というモチーフの中で描かれた老人ホームの生活、リアルな不安、リアルな喜び、寂しさを描く。スパイは、孤独な入居者と一緒に家族の写真を見て孫や娘の顔を忘れないようにする。スパイは内偵でみんなに触れるうちにいつしかみんなの相談に乗り心の拠り所になっていく。
ホームで亡くなった婦人は詩を書いていた。その一節。
「長寿という喜びを享受できるものは多くない。幸せ者だ。」
どんなこともやがては丸く収まる。
達観。
ポルファボール。