【ODRピックアップ】20141117 恒例ODRのゲスト授業@三田2013−2014
創業した2008年にお邪魔して以来、翌年(法科大学院とODR http://www.quon.asia/yomimono/lifestyle/law/2009/11/16/2096.php)も呼んでいただいてからは、すっかり毎年恒例となった慶応大学のODR授業。昨年は、教授が海外出張だったためお呼びがかかりませんでしたが、2013年からは復活。急に寒くなった11月某日夕方、研究棟で待ち合わせして、2014年も生徒さんの待つ教室へ向かう予定です。
例年は、一般社団法人ECネットワークの沢田理事とコンビで伺っていたのですが、昨年より諸事情で単独行軍。沢田理事の昨年のレジュメをお借りして、一人で頑張ってきます。前半は、ADRとODRの必然性や歴史を中心に、中盤には、最近のODRの実例を中心に、そして最後は越境電子商取引の苦情処理の事例として、越境消費者センターを取り上げ、解説をさせていただきます。
出席してくれる学生さんは、例年約20名程度でしょうか。他の先生方からは、「18時からのクラスとしては、多い」と、言われているそうです。
初期の頃は、ODRオタク期ともいえるような、一部の法律家が研究対象的に扱ってひたODRでしたが、その後、電子商取引の普及に後押しされ、OECDもガイドラインを打ち出し、組織化されベンチャー企業が生まれ、事業としてODRを行なう企業が多く出現してきました。現在は、国際連携を模索し、実験し、実用的なODR機関がいくつか生まれて来ています。
ODRの実例は、初期のものが淘汰されたり、形を変えたりしてきて、様変わりしています。
申請のオンライン化
AAA(American Arbitrators Association) 米国
BBB(Better Business Bureau)米国
日本の裁判申し立てでも、オンラインでの申請手続きができるようになっていますが、同様に米国のこれらの機関では、ADRの申請が行えます。BBBでは消費者からの申し立てが中心であり効果をあげています。
金額交渉の自動化
Cybersettle 米国
保険金の金額合意で、双方がブラインドビディングと呼ばれる方法でコンピュータ上での交渉を実現した同社ですが1998年から20万件以上を合意に導き、現在は、医療に特化した交渉だけでなく、支払や交渉、エスクローまで医療支払決済会社のようになっているようです。
交渉プロセス推進の管理と支援
Smartsettle カナダ
Mediation room イギリス
Juripax(多言語対応) オランダ
申し立てから始まって反論、それに対して質問や証拠の提示など、必要なプロセスが実際のADRと同じように順を追って進められるようになっています。論点が複数あればそれにも対応し、欧州圏では多言語の対応もできます。
ビデオ会議方式
MediateMe.com 米国
当事者も仲裁者も文字の情報交換に加えて、オンラインビデオ会議での話し合いを行うことができる。また、仲裁者の得意分野や時間都合なども調整し、まさにオンラインでのADRができるようになっている。
高層マンション専用のコミュニティ型
HighRise マレーシア
居住者専用のコミュニティの機能を併せ持っっている。紛争解決より、紛争防止するための地域のコミュニケーションの活性化を推進する。
市民法廷型
SideTaker 世界の皆に決めてもらおう 米国
eBay Resolution Center 米国
専門家の第三者も参加できるようになってはいるが、基本的には市民が当事者同士または不特定多数の市民の意見によって結論が導きだされる。eBayでは、年間4000万件の取引トラブルが扱われている。
こうした個別のシステムが登場している一方、ODRが一番有効になるであろう越境の小規模紛争では、執行力が重要となります。各国のODR機関の連携が必要となり、ODR機関間の連携が模索され具体化してきました。
欧州は、陸続きの国境も多く、越境の商取引が盛んに行われそれに伴い紛争も発生しました。しかも、言語も多彩でひとたびトラブルが発生すると、解決に困難で解決したとしても時間がかかります。そのままでは、商取引を縮小させてしまう。そこで、運営予算の半分を各国が負担し、残りの半分を欧州連合が負担する方式の紛争解決越境ネットワークECC-Netを発足させ、消費者には無償でのサービスを提供しています。既に、年間60000件近い紛争を扱っています。 参加国は欧州の28カ国となっています。
日本を中心にアジア太平洋地区でも、こうした状況は同じでした。1999年のOECDのガイドラインを受けて、GBDe(Global Business Dialogue for e-Society 2013年に解散)などが、ICA-Net構想を提唱し、経済産業省のプロジェクトERIAでの実証実験を経て、消費者庁に引き継がれ、2010年に越境消費者センターがプロジェクトとしてスタートしました。現在では4年目に入り、年間2000件近くの越境の消費者相談を取り扱っています。ここでの参加は、正式な提携を行っているのが5機関。南アメリカ各国を取りまとめる機関も参加しており、更に提携検討中なのが欧州とロシアの3機関。
こうした紛争解決のネットワークとは別に、紛争を事前に防止するためのトラストマーク機関のネットワークもあります。WTA(World Trustmark Alliance)は2004年に発足以来、アジアから太平洋、欧州、南アメリカと提携を広げ、27カ国30機関が参加しています。2013年には正式な法人登記を香港で完了し、APECのゲストシートを得て、更に市場に貢献する活動が期待されています。
そして、ODRExchangeは、主にシステム的な連携を模索する16機関から構成されたオンライン上の組織で、弊社ODR Room Networkもその一員となって活動しています。
というわけで、ODRは越境の提携も進み、どんどん進んでいる!有望だ!と思いたくなりますが、解決困難な課題が山積みです。例えば。
上の図で、欧州とCCJの提携を進めれば、いいのにと思うでしょう。なのに何でLusmediareという新興のODR機関との提携模索なのでしょう?
当初は、メンバーや関係者の個人的な伝手をもとに、案件を依頼していましたが、しばらくすると、「欧州の予算なので、欧州以外の消費者の案件を扱うことはできない」とツレナイ返事が。ODR機関がどのような財源で運営されているかによって、越境案件を扱えなくなることがわかりました。Lusmediareでは、有料でのサービスを前提に提携を模索しています。
また、仮に事業者に非があることが明確化したとしても、返品や返金あるいは賠償を実行させるための執行力はどうするか?ODR機関が当該事業者との取り決めで執行できる場合もありますが、そうでない場合は?どうなるかは、まだ未知数です。
国連のワーキンググループでは、共通の規則あるいはガイドラインをつくっていこうと議論を重ねていますが、言語の扱い、費用の基準、消費者保護法の運用の各国ごとの違いなど、こちらも課題が沢山あります。
2014年は、これまでの動きに加えて本格的な流れがでてきています。詳細はこちらをご覧ください
http://www.quon.asia/yomimono/lifestyle/law/2014/07/04/5152.php
ざっくり言うと、
(1)欧州での法制化ADR指令とODR規則が効力を持ち、各国にODR機関を設置することが義務づけられています。これに合わせて、具体的なODR機関やツールが実現し始めています。
(2)AAAなど法曹関係が着目し始め前回のODR FORUMではチェアマンが基調講演に登壇。
(3)新しいODRベンダーが名乗りを上げています
(4)ODRを組み込んであるサービスが多く登場
(5)資金が動き始め買収なども具体化
これから法律家を目指す人たちも、最初からODRを視野に入れておいていただけることを願います。