【ODRピックアップ】20160609 ODR FORUM 2016 in Den Haag / Netherland
5月23日、24日に、オランダのハーグにて、第15回のODR FORUMが開催されました。会場は、国際司法裁判所(Peace Palace 平和宮)という象徴的な場所となり、また、内容もこれまでタッチしてこなかった「ODRは裁判を助けるか」という核心に触れています。
出席者は、欧州、北米、南米、アフリカ地区、中東、アジア、ロシアなど多地域に渡り約100名弱、登壇した講演者らは45名となりました。
カンファレンスで交わされた議論などについて、まとめました。
メインテーマは、
「ODRは裁判を助けるか/ODRと裁判の関係はどうなっていくのか?」
どういう手順であれ、範囲であれ、裁判のデジタル化が進展するとはどういうことなのか。大雑把にまとめると、
裁判がデジタル化されるとは?
講演者は次のようなフレームでのODR(デジタル化、オンライン化)を提示しました。
1)裁判手続へのアクセス即ち裁判に関する情報を集め、質問をしたりする前段階
2)申し込みや申請手続
3)出廷や証言などのコミュニケーション手段
4)判決の保管、参照、共有
5)執行管理
また、オランダのツールメーカーから、「裁判に関わる書面生成ツール」が提示されました。それは、裁判コスト面で非常に大きな時間(コスト)を裂いていると見られる法的書面の作成時間。法律家以外が語る言葉を法的な言葉で、法的な書面にするいわば翻訳に掛かる作業やコストを縮小する為のツール:Magontslagです。
法的書類生成のツール化というのは、これまで提示されてこなかった視点です。
裁判のODR化の姿
この文脈では、会場内でアンケート形式で意見が集められました。
投票選択肢は以下の3つ。
1 ODRは裁判と統合される
これは、人々が単純に裁判所に行って結審を受けるだけでなく、前段階で、法的な情報収集や他の類似のケース例、適用される法律などを得られ、書類等の電子化などが進められ、その後、相手方をオンラインで議論に招き、解決を試み、第三者の調停人を招き、それでも解決できなければ、裁判の申請、オンラインでの申し渡し、執行手続のオンライン化など、全ての裁判手続が自然にオンライン手続を含めて行われるようになることを意味しています。
2 ODRは裁判と競合する
この選択肢は、既存の裁判手続より、便利で低コストな手続としてODRが存在することになるというもの。それには、ODRによる手続が法的にも認められ、市民はこれまでの裁判手続に加えて、ODRによる手続を選べるようになることを意味します。
3 ODRは裁判の事前手続となる
これは、ODRによる手続が、裁判に至る過程で行われる手続に採用される選択肢です。申請や証拠書類の提出、保管管理、参照などはオンライン技術が駆使して行われ、そこから、裁判や調停、仲裁などへ進むプロセスで、そうした文書などは共有されていく形です。この場合、裁判手順の中にデジタル技術が組み入れられて行くことも当然考えられます。(例えば、オンライン会議での証人尋問など)
(因に私は3に投票しました。)
では、どのように統合されていくのか?
一番票数を集めたのは、1で統合されていくには次のような段階を踏むだろうと述べたのは、基調講演者のLord Justice Fulford(Senior Presiding Judge of England and Wales)。最初は、手続の申請と書類の提出、書類のデジタル化。次に、オンラインによる証言や証人尋問が加えられ、最終的には全手続にオンライン技術が組み込まれる。
ここで話はデジタルデバイドによる懸念にも及びます。簡単になるとはいっても、アクセスできない人、苦手な人はおり、それによって公平性に差がでてしまうのではないか、結果としてジャッジへの不信に繋がり、裁判制度への不信に繋がる可能性があるのではないかということが課題として上げられます。
状況は国によって異なりますが、意外にもアフリカ地区では、PCよりもスマートフォンの普及率が高く、その上でアクセスできるようになれば、意外に問題とはならないかもしれないという意見もありました。
ツールとプラットフォーム
数年前から、ODRの実用化という点でリードしていたのは、eBayで実用化された電子商取引に置ける紛争解決システムでした。このシステムは現在も活用され年間6000万件にのぼる紛争を扱っているそうです。これを実用化したチームは、現在は独立し、MODRIA社を立上げています。同社は1昨年VCより資金を調達し、その機能充実と営業拡大に邁進していましたが、今年のフォーラムで、そのプラットフォームがオランダHiil社の離婚調停ODRや英国MediationRoom.comのシステムなどをはじめ複数の他社のプラットフォームとして採用されていることが明らかになっています。同社はツール販売だけでなく、これまでのベンダーへの経営参加もしています。
一方、ADR指令とODR規則が施行された欧州では、Youcetice社のプラットフォームが先行事例として出てきています。
この分野では、クラウド化した先行者が実質支配的になりつつあります。
弊社は、今回はCCJによる越境電子商取引ではなく(アピールしたものの不採用)マンションでの相談サービスとして展開する
「Click Counselor」
を、ワーキンググループのディスカッションテーマとして提示し、地主と借り主の紛争解決プラットフォームを担当しました。共通のテーマとして、「コスト削減目的のODRは、ビジネス規模を追求する」必要があるということで、いかに拡張するのかという議論がありましたが、日本語ベースで、弁護士法(非弁提携禁止)の前提のため、決済機能を持たないので、あまり参考にならないプラットフォームになってしまった感があります。
ODRビジネスは拡大しつつあるが
以下のマップ図が示すように、ODRに関わるビジネスや関係するツールやサービスを提供する企業等はすでに数多く出現し、資金調達に成功したり、ビジネスが軌道に乗っているところも出てきています。
(citation data from Hiil Inovating Justice)
「コスト削減目的のODRは、ビジネス規模を追求する」という命題があります。紛争を発掘し、処理数を増やさないとビジネスが成り立たない宿命にあります。
紛争発掘ツールとしてのODR機能
紛争はないほうがいい。ではその反対は、紛争に溢れた世界?そしてもう一つ、「紛争が表面化しない世界」があるのではないでしょうか。例えば、マンションでの紛争。お隣同士の紛争は避けたいので小さな紛争は我慢するかもしれない。匂い、騒音、ペット苦情、副流煙。。。その結果、小さな苦情の芽が蓄積され大きな不満に結びつく、鬱積する社会。アクセスしやすいODRの仕組みで、紛争にならない苦情を発掘し、相談レベルで処理していくほうが、より健全な社会を築ける可能性があるのではないでしょうか。
* * *
今回のフォーラムは、ワーキンググループでのディスカッションが多く、参加できるセッションは一つになってしまうので、私が参加したセッション以外は、主催者のレポートを待つことになります。
日本とODRの関わりは?もっと参加を増やそう。
日本でも、古くは、シロガネサイバーポールなどの実験、最近では国民生活センター越境消費者センターなどの実務的な取り組みがありますが、UNICITRALのWG3の活動を経て、既にデジュール的活動は一つの結論を得てしまった感もあり、緩やかな合意形成のためのフォーラムでは、日本(というかアジア)は出遅れ感があります。
様々な理由や状況が原因にありますが、一つの要因は、弁護士法の非弁提携禁止(弁護士法27条)の影響(※注参照)。例えば、今回のワークショップで事例として紹介していますが、弊社の提供する契約マンション専用の相談サービス「Click Counselor」は、法的相談に関しての決済機能がありません。その理由として、決済を持ってしまうと非弁提携行為となってしまう恐れがあると指摘されたためですが、ODRとしては致命的な機能不足です。だから、「ODRプラットフォーム事例としては弱い」と指摘されました。
(※注:なお、非弁活動を禁じる72条の関連は、他国でも同様の扱いでした。)
実は、日本にも、発掘して紹介していけば面白い例は、越境消費者センターをはじめとして、例えば、弁護士ドットコムや離島の裁判デモなど、たくさんあるのです。このあたり進め方、巻き込み方がまずかったなぁと思う所です。
今後、ODRに関わる人をもっと増やしていく必要があります。現在は慶応大学で年に一回だけODRを授業をやらせていただいていますが、こうした試みを増やせないかということと、授業の一環で、ODR FORUMに参加してもらって、日本からの参加や情報発信を増やすきっかけにしていきたい。”学生を巻き込む活動”は将来作りに非常に重要で有効だと思います。
いかがでしょう。
※今回の主催が発表したまとめレポートを翻訳中です。しばらくお待ちください。
first outline of a Trend Report on ODR and the Courts
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ところで、昨年、私が参加を進めた中国の教授は、精力的に活動し、今年の9月に北京でODR FORUMを開催することを発表しました。みんなには「(近いんだから当然)参加するだろう?」と誘われていますが、ちょっと悔しくてどうしようかなと思っています。
但し、2017年はパリで開催されます。これは行きたい!!!
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