【ODRピックアップ】20160310 ディスカバリ
"ディスカバリー"とは、"ディスカバー"の名詞形。「発見」を意味する言葉ですが、私の世代の方々の脳裏に、すぐ浮かんでくるのは、"ディスカバージャパン"というCMのキャッチフレーズです。
東京オリンピック、大阪万博をきっかけに整備された東海道新幹線によって、団体旅行から個人旅行が盛んになりつつあったころ、当時の国鉄(現JR各社)が、展開した個人旅行拡大キャンペーンです。日本には自分の知らない素晴らしい所が沢山あるんだ!とワクワクしたものでした。
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株式会社UBIC(ユービック)が主催したセミナー
「「クロスボーダー訴訟の現状及びその対策」
~グローバル企業に求められる国際訴訟の傾向と対策~」
に参加したことがあります。同社は、データフォレンジック分野の日本を代表する企業。フォレンジック(forensic)とは、犯罪科学と訳され、電子証拠解析技術という特殊なITの分野です。訴訟大国といわれる米国が先行していますが、日本では米国の企業等との訴訟対策として注目され始めています。
「裁判沙汰」という言葉があります。
日本では、「裁判沙汰になってしまった」という表現は、刃物沙汰、正気の沙汰と同じ要に、"できれば起こらない方がいい、避けたいこと"というニュアンスがあります。 しかし、米国では、集団訴訟、懲罰的損害賠償、など、日本にはない法慣習も沢山あり、ディスカバリーもそうした慣習の一つです。
証拠開示手続き(ディスカバリー)
ディスカバリーでない訴訟の場合は、原告、被告それぞれが、勝つ為に必要な証拠すなわち有利な証拠を中心に開示していきます。不利な証拠は相手に発見されない限りは開示する必要はありません。しかし、ディスカバリーでは、すべての証拠(となりうるもの)を一部の例外を除いて、相手方に開示する必要があります。従って、「すべての証拠を開示している」ことも開示する必要があり、結果的には、自分の手帳やメモなども含めて開示対象となってしまいます。
私が証人だった国際仲裁では、米国人の大学教授にExpert witness(専門家証人)を依頼する際に、
「それはディスカバリーか?だったら協力できない」
と最初に確認されたほど、恐れられて(?)いるもののようです。
ところで、ディスカバリーに限らず注意が必要なのは、電子メールによる証拠です。今日では非常に多くのコミュニケーションがメールで行なわれていますが、訴訟となった場合、例えば自分に都合の悪いメールを消しても、相手側にも残っていますので、却って不利な状況になる場合もあります。
実際に、私が遭遇したメールにまつわる不利な場面としては、
・英文のスペルミス
スペルミスがまったく逆の解釈をされてしまう場合。
It is unusual case so I could not agree.(それは通常ケースではない。だから賛成できない)と書いたつもりのメールで、unusualをunsualとスペルミス。
It is unsual case so I could not agree.
相手方は、unsualをusualのスペルミスと解釈してきました。(それは通常ケースだ。だから賛成できない)と文章としてはおかしいですが、それを逆手に、理性的でない人間だという攻めをしてきたのです。
・皮肉、逆説的文面
怒りのあまり、日本的な、皮肉をこめた「そんなこともできないなら、だったらもうやる必要ないですよ」という意味のメール。メール文面だけを見ると、やる必要がないと認めた証拠として提出されてしまいました。
・保存期限による消失
相手方と仕事をしていた際に、使用していたPCが壊れてしまい、電子メールが1年分消失。当時まだ電子メールの普及時期で、バックアップ等も十分でなく、非常に不利なメールが相手から開示され、四苦八苦。
最近では、保存容量が制限されている場合もあり、容量を超えたら一定期間以前は自動的に消えてしまうメールサーバーもあり、メールの保存には注意が必要です。もちろん、壊れてしまう、消失してしまうこともありますから、バックアップも万全に。