BADON8 オノナツメ【読書/映画感想】20231115
ムショあがりの4人の男が新天地バードンで立ち上げた高級タバコ店をめぐる静かに進む物語。リリーは高校卒業資格試験に合格し、ラズはタバコ職人の試験に合格した。チーロは世話になったボスが亡くなり借金を後継者に返すことになることを懸念している。波乱のきっかけが少しずつ芽吹いている。
タバコの話は自分が吸わなくなった今でも未だに不思議と魅力的だ。自分が吸っていたのは学生時代から結婚するまでだがその間のタバコとコーラで怪しげなスナックや喫茶店に一人で、あるいは誰か仲の良い友人としけ込んで過ごした時間ははっきりと覚えていないのに強烈な印象を残している。矛盾した記憶と感情。翌日は学校なのに徹夜で雀卓を囲んで牛丼を食べたあとの一服だって至福の味だった。
タバコを吸う芸人のヒコロヒーが歌う「HOPE」がいい味を出している。日常生活のスーパーの帰り道に喫煙所に立ち寄り、ポケットからタバコを出して、”短い希望に火をつける”。それはまたくしゃくしゃのタバコで、しかもおそらく銘柄はHOPEだろう。この描写には気持ちの落ち込みは表れていないが、そんななんともないときに吸うタバコが小さな希望のようなものだなと思うのだ。